長いしっぽと情報発信

最近、あちこちでLongTailという言葉にお目にかかります。同時に恐竜の長い尻尾のようなグラフを目にします(この辺を参照)。LongTailはネット時代のマーケティングの象徴的事象として、多くのマーケターが注目しているようです。LongTailの登場でニッチ市場の底上げが進み、結果として2割の主力商品が売上全体の8割を占めるというマーケティングのセオリー、パレートの法則を成り立たなくさせているというのです。このパレートの法則、2年ほど前に初めて手にしたマーケティングの入門書で「100匹蟻がいると、そのうち20匹で80%の仕事をこなしている」と分かりやすく砕いた解説をしてあるのを目にし、妙に納得させられたのでよく覚えています。でもそのセオリーが崩壊するというのだから、興味津々です。

さて、FPNの徳力氏のブログで興味深いエントリーがありました。「ロングテール論とマスメディア存亡論の関係」というタイトルのエントリーには、

それが、ネット上の掲示板やブログという手軽な情報発信の手段に触れた人たちは、その(情報は受けるものだという)思い込みから徐々に開放されつつあります。
 ネットのツールを使えば自分で簡単に個人メディアを作れてしまうわけで、情報発信がプロだけの仕事ではないことに気づいてしまうわけですね。

と書かれ、イノベーションである個人メディアの集積が既存マスメディアを飲み込んでしまうかもしれないと述べられています(最後は、既存マスメディアと個人メディアの住み分けに落ち着くのでは、という所で結んでありますが)。

確かにこれまで、情報発信の多くは既存メディアと一握りの市民(識者とかよばれる人たち)に限られてきたわけです。パレートの法則に準えて言うと、20%の人が80%(もしくはそれ以上)の情報を牛耳っていたことになります。しかしながら、ネットの普及、特にウェブログの爆発的流行は、まさに、情報発信の世界で成り立っていたパレートの法則を崩壊に追い込んでしまったのです。ウェブログを通じた個人の情報発信は、LongTailによるニッチ市場の底上げと同じように、情報発信の絶対量を圧倒的に増やし、これまで80%の情報を支配していた既存メディアの情報支配の割合を著しく下げようとしているのです。既存マスメディアのビジネスモデルは、これまで情報ヒエラルキーの頂点に君臨することで成り立っていたわけですから、LongTailの出現によるパレートの法則崩壊、情報ヒエラルキー崩壊は、イコールビジネスモデル崩壊を意味しています。既存マスメディアが反射的に拒否反応を示す原因はその辺りにあるように思います。インターネットの情報は信頼できないとアナウンスすることで、自分たちの信頼性を強調するし、愛や心がないとアナウンスしては、自分たちと消費者の長年のお付き合いを強調し情に訴える。最近よく目にする姿です。

いま、既存マスメディアに求められているのは、LongTailによる法則崩壊を懸命に繕うことではないはずです。情報収集や編集スキルといったコアコンピタンスを最大限に活用し、LongTailの発信する情報との融合をはかることではないのでしょうか。

◇勉強させていただいたブログ◇

Netcom Eye 「ロングテール論とマスメディア存亡論の関係」
CNET Japan Blog「Long Tailとインターネットビジネスの基本則」
カトラーのマーケティング言論 「マツケンサンバ・ブームのLong tail構造」
ネットは新聞を殺すのか 「Long Tailとマスコミュニケーション全盛時代の終焉」
INTERNET Watch 「第47回 「長いしっぽ」が世界に革命を起こす」

コメント

  1. Tokuriki より:

     トラックバック有難うございました。

     このLongtailまわりの議論は本当に興味深いですよね。
     私なんかは素人に近いので、まだ本質を理解できていないのですが・・・
     個人にとってもメディアにとっても、いろいろ考えないといけない時代になってきている感じはします。
     今後ともよろしくお願いします。

  2. テサラック@管理人 より:

    Tokurikiさん、コメントありがとうございます。
    ネットの登場により、色々なフィールドでパラダイムシフトが起こっているようです。これを読み解くカギがLongTailなのかもしれません。
    こちらこそ、今後ともよろしくお願いします。

  3.  テラサックさんのおっしゃられている意見「コアコンピタンスを最大限に活用し、LongTailの発信する情報との融合をはかること」に大賛成です。パレートの法則は当然ながら知っていましたが、お恥ずかしながら「LongTail」という言葉をはじめて知りました。ありがとうございます。

  4. ホリエもんの錯誤??ネットで「新聞」は殺されない

     いつの間にやら、ホリエもん祭りは終息したらしい。いったい、どうなってるんだ?

     毎日新聞「MSN-Mainichi INTERACTIVE ネット時代のジャーナリズムとは何か」が興味深くて、ちょくちょく見ている。あの人もいずれ登場するらしい。ワクワク。

     ところで、「ネットは新聞を殺すのか??」について整理し切れなかった問題が、堀江社長のインタビューに対する疑問で、ある程度まとまりそうなので考えた。

     その一。ニュースは誰が配信しているのか

     「僕は自宅では新聞を取っていない。取る必要もない。携帯とネットのニュースサイトで十分だ。例えば、地震のニュースも、起きたら…

  5. テサラック@管理人 より:

    わかばやしくさん、コメントありがとうございます。
    私も最近知ったばかりでまだまだ勉強不足なのですが、LongTailを形成しているのが何者で、今後どう変わっていくのか、をしっかり見つめることが大切なのだと思います。
    今後ともよろしくお願いします。

  6. 「新聞の本義」のマーケ屋さん的考察(嘘)

     新聞とネットの関係についていろいろ書きながら、こことかあそことか読んでいて気がついた。
     俺ってば、商売についての考察がゼロだ…。
     会社に入ってから幸いにも、「金稼げ」とか「広告取って来い」と言われたことがなく、むしろ経費を使う一方で、同期の営業、販売の人たち「お願いします」状態なのでした。

     しかし、商品についての販売戦略がなければ事業は成り立たない。
     お! マーケ屋さんみたいだヾ(´▽`;)ゝ

     「FIFTH EDITION」氏による「社会に必要とされる情報と大衆が必要とする情報」なんかに釣られる形で、調査報道と商売について私的な経験を。

     ある小さな自…