メディアのプロダクトアウト戦略

過去のエントリーで、メディアとプロダクトアウト、マーケットインについて近いうちに書きます、と宣言していましたので、大したことは書けませんが少しだけ…。

私は2年ほど前、初めてマーケティングの入門書を手に取りました。仕事で必要になり、あわてて数冊を読みあさったのですが、今では、勉強の機会を無理矢理作ってくれた会社に少しだけ感謝しています。

ところで、少しずつマーケティングって何っ…ということが分かるようになると、やはり仕事柄「新聞」を商品と考え、いろいろなマーケティングのセオリーに当てはめて考えるようになってしまいました。で、いつも消費者志向の薄さを思い知らされるのです。個人的には、法によって守られていることや、独特の流通形態である販売店制度などが、その背景に色濃くあるのでは、とも思うのですが…。

新聞は、そういった背景と、消費者が知りえないことを伝える使命(某ニュースキャスターも言われていましたが)みたいなものが相まって、自分たちの信じる商品作りに、疑うことなくまい進してきたのではないでしょうか。マスメディアであるがゆえに、「どういった読者に読んでいただきたい」といったターゲット意識は極端に希薄ですし、「(経験上)○○だろう」「こういう特集が面白いはずだ」「新聞社というものははこうすべきなんだ」というような曖昧かつ感覚的な判断で、商品をつくり届けているように思えてなりません。ある意味究極のプロダクトアウトです。これが、消費者の要請と合致していれば、斜陽産業なんて言われるはずがないのですが。

少し前の話になりますが、「真の顧客志向を生む プロダクトアウト戦略」(伊藤修著、ダイヤモンド社)という本を読みました。マーケティングを少しかじったばかりに、マーケットインの考え方にどっぷりと首まで浸かっている時期でした。その頃は、リサーチを実施し必要だと思われている順にコンテンツの優先順位を決めれば…とまで思っていましたから…。そんな時、たまたまひときわ目立つ黄色い背表紙の本を見つけました。そこには「プロダクトアウト」の文字が…。「何を今さらプロダクトアウト」と思いながら手に取ったのですが、ただのプロダクトアウトではなく�真の�プロダクトアウトという強調のしかたが妙に引っかかり、とりあえず読んでみることにしたのです。

内容を一言で言うと(荒っぽくてすみません)、「マーケットイン戦略がもてはやされているが、何もかも消費者の望むとおりにすれば良いというものではない。企業は自社のコアコンピタンスを正しく認識し、消費者をあっと驚かせるくらいの優れた商品を世に送り出さなければならない。これぞ真のプロダクトアウトだ」とのこと。

はじめは疑り深く手に取った本だったのですが、いたく共感してしまって、新聞にこれを当てはめるとどうなるだろうと、随分考えました。前にも書きましたが、新聞は消費者のライフスタイルや消費志向を十分に知る努力をせずに、情報を発信してきたように思います。だから真のプロダクトアウトの一歩前の段階から、考えていく必要がありそうです。広告主へのアカウンタビリティを果たす目的だけでなく、ありのままの消費者像をリサーチし、その姿を知る努力をするべきでしょう。そして、良いデータのみを、魅せるテクニックで発表するのではなく、厳しいデータを真摯に受け入れ、改善に努め、新たな思考回路で「真のプロダクトアウト」を目指さなければならないと思います。

最近、何かと話題になるネットと既存メディアとの融合の話も同じようなことかもしれません。既存メディアは、IT産業に遅れをとっている場合ではないのです。ネットを毛嫌いすることなく、今後、消費者に間違いなく浸透していくメディアであることを受け入れなければなりません。また、積極的にそれを取り込み、消費者の望むスタイルを提供するだけでなく、提案できるくらいの総合情報産業を目指すべきなのだと思います。今みたいにネットのネガティブな部分の情報ばかりを強調し、便利さなどプラスの情報をあまり伝えないのでは、消費者と目線がずれていくばかりではないかと心配になります。

ホリエモンのネット+既存メディアの概念を上回る、それでいて消費者の目線をはずしていない、そんな新しいスタイルのメディアの提案が、今、市場から求められているのだと思います。これこそメディアの「真のプロダクトアウト戦略」なのではないでしょうか。

コメント

  1. ライブドアとその周辺の報道等について〜続き4

    私は本稿の始めから、ライブドアは誰に対して
    このゲームをしかけたのか?
    という問いを立てながら、それにはっきり
    とは答えていなかった。

    前回、3人目のプレイヤーの存在を明らかに
    したので、この問いに対しての見通しは
    かなり良くなっていると思う。

    答えはほとんど出ている。

    明らかなのは2人目のプレイヤー、
    ニッポン放送あるいはフジサンケイグループ。
    そしてこのテーマではあまり重要な役割を
    果たしていないが当然ライバル企業。
    そして最後のプレイヤーは、この騒動を
    見ている私たちである。
    そしてライブドアにとって私たちがもっとも重要な
    プレイヤーだ。
    なぜなら私たちはライブドアの「顧客(見込み)」だからだ。

    つまりライブドアがこのゲームをしかけた相手は

    1.ニッポン放送(フジサンケイグループ)
    2.マスメディア
    3.ライバル企業

    ライブドアにとって最も重要なプレイヤー

    4.顧客(見込み)あるいは騒動を「見ている人」

    主な相手はこの4グループだが、ほかにも考えられる。
    しかしここでは主にこれらのグループだと言っておく。

    そして「顧客」はいくつかのセグメントに分ける
    ことができる。
    このことに関するニッポン放送(フジサンケイグループ)の
    意味は小さくない(後で詳しく見ていくだろう)。

    つまり同時に起こっているということだ。

    シナジーはもう表れている。

    補足

    このグループは役割が全く異質であるから、
    また違う文脈で語られるだろう。ここではあえて無視する。
    ライブドアにとってリスクがあるとすれば
    鍵を握っているのはこのグループだろう。

    場外(とりあえず).投資・金融機関

    これらの明らかになった事を踏まえて「シナジー」の意味を
    考察する。

    以前、今回の一連の報道の広告効果が、約100億円
    だという試算を紹介したが、
    私はその試算を「控えめである。」と考えている。
    おそらく単純に、今回の騒動での露出回数から算出
    された数字であろう。
    プロ野球の騒動との文脈も計算に入っていないのでは
    ないか。

    文脈とは、主に見ている人間が個々にストーリー性を
    感じながらこの現象を見るのではないか、という事である。
    単発で終わる広告よりも、ストーリー性を持たせたほうが
    何倍もの効果があるだろう。
    そしてエキサイティングなシナリオには高い値段もつくだろう。
    魅力的な役者にも。
    このことはまた詳しく見ていく。

    そしてしつこいようだが、ライブドアがこの知名度の上昇に対して
    全くキャッシュを使っていないという事実。
    この事が意味するのは、単純に使わなかった費用の価値が
    ライブドアの企業価値に足し算されるというわけではない
    ということだ。

    どういうことか説明しよう。
    例えば百億使って同じ程度の知名度の上昇が見込めたとしよう。
    (私は百億でこれほど知名度を上昇させることなど、できないと思うが)
    しかし同時に、百億を広告に使うということは、その百億を投資に
    まわすことができないということを意味する。

    つまり、ライブドアの今回の報道での広告効果が百億円分だとすると、
    マイナスになるはずの百億はキャンセルされ、投資に使える百億は
    手元に残るということになる。
    金融機関等から調達できるキャッシュの量も、当然大きく増える。
    私が、ライブドアが知名度上昇のためにキャッシュを使っていない
    ことを強調するのはこのためだ。

    知名度が上昇してもキャッシュが手元になければ
    大きな投資ができずに、その知名度の上昇の効果も、
    時間が経つにつれてしぼんでしまう。

    逆にキャッシュを使って大きな投資をしても、知名度が低ければ、
    大きなリターンは望めない。

    ライブドアのような知名度の低かったベンチャー企業にとって、
    百億円分の知名度上昇の効果が無料で手に入ることの意味は、
    単純に百億円の価値がプラスされる、という事ではないのだ。
    もし大きな投資を成功させるアイディアがあれば、
    その効果には何倍ものレバレッジがかかるということだ。
    そして大きな投資と知名度の上昇が、相互に影響を与え合い
    ながら同時に、しかも急速に進行している。

    現在のライブドアは一ヶ月前のライブドアとは全く
    違う企業に見えるほど急速に価値を高めている。

    はじめからある程度知名度のある企業が商品広告に百億使う
    ときの効果とは全く違う種類の効果が、ライブドアのような
    ベンチャー企業にはありうるということだ。

    ここにライブドアのアピールのうまさが卓越しているという
    事実は無視できない。
    我々が見たいと思うから(視聴率が上がるから)放送されるのだ。

    次回も考察する。

    謝意

    コメント、トラックバックに感謝します。

  2. TB&コメントありがとうございます。
    プロダクトアウトという言葉は初めて知りました。
    私と同じような問題意識をおもちのようなので、心強く感じました。
    新聞業界はどこもどうしてこんなに硬直化した組織になってしまったのでしょうか。そのうち、ITを扱えない老人しか新聞を読む層はいなくなるのではないかと本当に心配になります。
    少しずつでも社員一人一人が意識を変え、発言していくしかないと思います。

  3. テサラック@管理人 より:

    メディア探究さん、コメントありがとうございます。
    そうですね、ブログ上では「内側からは変わりっこない」などと手厳しい意見をいただくことが多いようですが、今ユーザーに支えられている事実がある以上、そんな無責任なことは言えないですよね。私も内側から何を変えていけるのか模索中です。今後ともよろしくお願いします。

  4. アライアンスの時代:MicrosoftとSymbian

    CNET Japanよりマイクロソフト、シンビアンと提携では携帯端末分野での直接的ライバルがアライアンスを推進しなければ、時間を買えない=生き残れない事を意味するのではないでしょうか。系列会社で開発を進める事よりも、自分にない強みを持つライバル会社と殴り合いをしながらも手を組む事の方が、結果的に市場占有に必要な時間を削減できます。この巨大OS企業MicrosoftでさえSymbianと組むというこの事態は、自社に確たる強みが有りさえすれば大企業とも対等に渡り合えるという好例になるのではないでしょうか。「真の顧客志向を生む プロダクトアウト戦略」(伊藤修著、ダイヤモンド社)と言う本を読んだ…

  5. bookbig より:

    以前、小生のブログでテサラックさんが示唆された通り、ヤフーが動きそうになってきました。。

  6. 3/13 ライブドア勝ち??

    まず1勝あげたみたい。
    ホリエモン(ライブドア)についていくつかキーワードを挙げてみた。

    分割バブル
    先日のニュースステーション(じゃない報道ステーションか)で、株式分割による株価操作について言及していた。つまり、株式を本来100分割すると、1株当たり株価が100分の1になるのが当然だけど、株券の事務手続きの理由から品薄感が広がり、2ヶ月ほどは株価が急激に上昇するらしい(元証券マンなのに知りませんでした)。その株価上昇をM&Aに利用し、及び時価総額アップにより資金調達に活用する。証券市場を熟知した手法ということか。現に分割発表直後の2004年の1月に15日連続ストップ高を記録したという。分割は個人投資家(株主)を増やし、個人向けビジネスの拡大という側面もあるけど。。

      株式分割 → 個人投資家を増やす
       ↓
      株価上昇 → 時価総額アップによる有利な資金調達
       ↓
      株式交換による買収

    買収ゲーム
    いつかの雑誌に記載していたけど、ライブドアは週1回『投資委員会』を30人ほどで開き、常時30社ほどの買収案件を報告し合うという。買収対象となる企業があると、帳簿上と現状の資産に違いがないかを調べる。その上で、経営統合した際に削れる支出を探し、将来の損益計算書を作る。2〜3年の青写真を描き、キャッシュフローが売却先の提示した金額を上回ればGO。きわめてシンプル。

    金融事業
    先blogでも書いたように、ライブドアのみならずIT企業は金融にとても興味を持ってる。イーバンク銀行の出資(これはもめたらしいけど)、日本グローバル証券の買収。これからも案件は続々出てくるやろう。

    ヤフー対抗
    個人向けビジネスで完全な勝ち組となるには、ポータルサイトとして社会に認知してもらう必要あり。新しいサービスを開始しても、ヤフーとライブドアでは参加人数は全然違うだろう。現に今年に入ってようやくヤフーがblogサービスを開始すると、圧倒的な囲い込みが出来ているという(アメブロ頑張れ)。

    完全なる損得勘定
    2002年にライブドアが民事再生法の適用を申請した。当時ホリエモン運営のエッジが営業譲渡を受け、社名をライブドアに変更した。彼の著書にも記載しているけど、吸収する方のエッジが社名変更することは何の躊躇もなかったという。理由は『ライブドアの方が有名だから』だって。また、ライブドアサイトがヤフーサイトと似かよっていることも、『ヤフーと同じことをやるのが成功の近道』と軽く言い放つ。旧態依然のプロ野球業界や放送業界に、しがらみ関係なく直球を投げる彼の性格は一貫しているようにも思う。

    金融技術が十分で、かつ知名度もこの1年で得たライブドア(ホリエモン)。
    ニッポン放送問題、どう展開するか、、です。

  7. テサラック@管理人 より:

    bookbigさん、コメントありがとうございました。
    やはり動き出したかって感じですね。でも、この動きは氷山の一角だと思います。かなり周到に計画されているのではないでしょうか。

  8. ビジネスとメディアの行方(前篇)

    「地方のメディアの役割、地方の広告代理店の役割、そして生き残る術ってこんな風に考えるけど」について小さな視野の中で模索しビジネスとしてみた場合に特化したメディアを見ていきたい。クライアントの要望にこたえていない状況が、地方のメディア周辺のビジネスによこた

  9. scapa より:

    お久しぶりです。テサラックさんの昔のエントリーにトラックバックしてしまいました…。「自社のコアコンピタンスを正しく認識し、消費者をあっと驚かせるくらいの優れた商品を世に送り出さなければならない」に刺激を受けてエントリーをしています。結論まではまだエントリーしていませんが…。ご笑覧いただければ幸いです。

  10. テサラック@管理人 より:

    >scapaさん
    コメントありがとうございます。
    前篇中篇と興味深く読ませていただきました。
    後篇も楽しみにしております。

  11. ビジネスとメディアの行方(後篇)

    「新聞を読んでいる人」と「新聞を買っている人」というのを明確に区別すること、をどう考えるか。一つのヒントはリクルートの雑誌戦略だ。リクルートの戦略は、「雑誌を読む人」と「雑誌を買う人」「雑誌に広告を出稿する人」を限りなく一致させていることが肝だと私は考え