10年前の3月31日、私は16年お世話になった佐賀新聞社を辞めました。3月25日に株式会社ローカルメディアラボの登記が完了したので、会社も丸10年が過ぎたことになります。
最近、「自分はこの10年何をやってきたのだろう」とふと振り返ることが増えました。ひと区切りの意味と、次の10年を見据えて、自身の周辺の色々なモノを整理しておきたいという思いです。まずは、会社を辞めるときのことを振り返ってみると、、、
既存の組織や枠組みにとらわれない新しい地域メディアが、これからたくさん登場してくるべきだ、というのが私の持論です。
とか書いているけど、これはあまり実現できていない(笑)。佐賀市協働推進課さんと取り組ませていただいている「つながるさがし」は、大きな成果の一つだと自負していますが、まだ自走できるメディアの形ではありません。そういった意味で「自走できる新しい地域メディア、もしくはその要素」みたいなものを築いていくのが、次の10年に持ち越される宿題だと認識しています。ぼんやりと見えている姿はあるので、これは上手く形にしていきたいところです。
地域情報化とシビックテック
新聞業界を離れてからは、多くの“地域情報化”の活動に関わらせていただきました。鹿児島県肝付町、熊本県湯前町、福岡県添田町には何度も通い、地域のみなさんと一緒にICTを使った地域活性について考えてきました。ただ活動を重ねるたびに、充実感と共にモヤモヤ感が募っていきました。「何かやらなきゃならない」から地域情報化に取り組むのだけど、そこに自発的なモチベーションがあまり見えない、多分、よそ者がいなくなると活動自体が滞るのではないか。。。このモヤモヤ感にヒントをくれたのが、シビックテックとの出会いでした。
これまでの地域情報化に、プラスαすべき要素は何なのだろう、と思い悩んでいた頃、2013年に出会ったのが、Code for KanazawaでありCode for Japanでした。そして、これがきっかけで“オープンデータ”に深く関わることになります。
市民によるボトムアップ型の○○は、2003年〜2004年頃、新たなメディアづくりに目覚めた頃に散々妄想し、「シビックジャーナリズム」「参加型ジャーナリズム」や「コンシューマジェネレーテッドメディア」というキーワードに傾倒しました。新聞業界では初めてとなった地域SNSの運営者としての経験も、そういったボトムアップ型メディアを作りたいという思いを後押ししました。自分の中では、その頃の思いと、Code for Xやオープンデータのムーブメントが結びついた感じでした。
Code for Saga
2013年秋に、佐賀に久しぶりに帰った来られた川島宏一さん(元佐賀県CIO)を呼び止め、オープンデータの勉強会を仲間内で開催しました。翌2014年2月22日、オープンデータデイに初めて参加し、その場でCode for Sagaの立ち上げを宣言しました。オープンデータデイをやると宣言したものの、何をやっていいか分からず、新横浜駅で慌ただしく庄司昌彦さんを捕まえて話をきいたこともあったなぁと(笑)
Code for Sagaを立ち上げてからは、とにかく色々な出会いがありました。内輪の活動にならないようにと、なるべくウェブサイトやFacebookグループでの情報発信を繰り返した結果、佐賀県内はもとより、九州各地から同じような思いをもつ仲間が集まってくれました。更には、Code for Japanコアメンバーの方々や、全国各地で活動するCode for Xのみなさんとの出会いの機会もいただきました。2014年、金沢で開催されたミートアップイベントは、衝撃的でした。
社会は、世代や立場を越えたこんな人たちの横連携で変わるはず。。。と思い始めたのもこの頃でした。(この感覚、、、どこかで経験したことがある。地域SNS全国フォーラム!!)みたいなことも感じたり。
デジタルアーカイブ
岡本真さんと初めてお会いしたのは佐賀の居酒屋でした。弊社インターンシップの学生が、たまたま岡本さんと出会って「佐賀にそんな変な会社あるんだ、って盛り上がりました」とメッセージをくれたのが始まり。その次の岡本さん来佐の機会に企画された飲み会に参加させていただきました。2015年には、横浜で開催されたWikipediaタウンファシリテータ養成講座にも参加し、OpenGLAMを大いに意識するようになりました。
自身、大学時代に日本民俗学を専攻したこともあり、「柳田國男がSNSの時代に生きていたら、何をどう使っただろう」などと大いに妄想していたこともあり、OpenGLAMの活動は、自然と身近に感じるようになりました。
そんな中、大きな機会をいただいたのが、2018年度、佐賀県立図書館収蔵資料のデジタルアーカイブリニューアル事業の受託。オープンデータ、デジタルアーカイブという大きなキーワードを掲げ、岡本真さんの助言もいただきながら、弊社としては比較的大きなプロジェクトを成し遂げました。また、これを機に、図書館総合展への初出展など、新たなフィールドが見えてきました。「デジタルアーカイブを世界へ、未来へ」は、これからも、弊社の活動の大きな柱になります。
スマートシティ?
オープンデータ利活用に比較的早い段階で取り組んだことで、2017年から内閣官房オープンデータ伝道師、2018年からは総務省地域情報化アドバイザーとして活動させていただくことになりました。地方自治体がオープンデータに取り組むことの意義や、官民連携、市民協働で何が起こる(かもしれない)かは、正解がない分野なだけに、随分とイメージを膨らませ近未来を描き伝えてきたつもりです。
ただ正直な所、事例の少ない“イメージ”は、なかなか伝わらない。地域情報化に取り組みだしたころのジレンマみたいなものを、再び感じるようになりました。そんな中、色々な本を読みあさったり、講演会に出かけたり、シビックテック仲間とディスカッションしたりする中で行き着いたのが、「新しい社会」「新しい公共」「新しい地域」を生み出すきっかけとしての“オープンデータ”の存在でした。オープンデータが何かを起こすのではなく、オープンデータも使うと「新しい○○」がデザインしやすくなる、というような感覚でしょうか。
最近は「スマートシティ」というキーワードに興味を持っています。ただ、どこかピンとこない。それは、これまでの国内での実証実験等の取り組みが、どこかテクノロジーオリエンテッドであり、私がこれまでの地域での活動で大事だと肌で感じてきたボトムアップ型の活動や、民俗学的な観点からの“過去”のアーカイブの重要性や、そして何より楽しみながら自走できる仕組みが融合していないと感じるからなのかもしれません。
次の10年は、こういう視点で、“スマート”で“泥臭い”まちづくりに関わってみたいし、情報発信をしていくつもりです。
まだ10年!
起業からの10年のこと、本当はもっともっと書きたいことがあります。ただ、これからの10年のことは、その何倍も書きたいことがあります(笑)。具体的な活動指針や計画も、随分まとまってきました。
恐らく、これからの10年で社会は大きく変わるでしょう。縮小型社会の中で、パフォーマンスばかりで自己満足している地域は沈んでいくし、地道に新しい価値を生み出し積み上げていく地域は、少しずつ未来が開けていくでしょう。そんな過渡期に、何を生み出していくのか、しっかり腰を据えて考え、実行していきたいと思います。
まだ10年。これからの10年が楽しみです。